“死”を暗示させる曲は美しい? その1

ファイル#4 曲名:Morning Dew 
作詞,作曲:ボニー・ドブソン
Bonnie Dobson に収録

カナダ出身の女性フォーク・シンガー、ボニー・ドブソンの代表曲「Morning Dew(朝露)」。その歌詞は、女性の問いかけ(“わたしを朝露の中に連れ出して” “今日 赤子の泣き声を聞いたの”) に男性が否定的(“きみを連れ出すことはできないよ” “赤子の泣き声は聴こえないよ”)に答えていくという問答形式で進んでいく。そして最後のスタンザで “みんな何処に行ってしまったの?” という女性の問いに “みんなの心配はしなくていいよ もうみんなどこかに消えてしまったんだ” と男性が答える。幻想的でどこか “死” や “滅亡” を匂わせる。それもそのはずで、核爆弾による放射能での人類絶滅を描いた1957年のネビル・シュートの小説「渚にて(On The Beach)」、彼女はそれを基に制作された映画を見て感銘を受けこの曲を書いたそうだ。となると、曲のタイトル “朝露” というのは放射能を意味していると考えられるし、この曲自体が反核を唱えていると捉えることもできる。

反核歌となれば受けもよくなるのか、この曲をカバーしたミュージシャンは非常に多い。イギリスでは第1期ジェフ・ベック・グループ(当然ヴォーカルはロッド・スチュアート)が1968年発表のファースト・アルバム「Truth」で取りあげ、プログレッシブ・ロック・グループのプロコル・ハルムもBBCセッションで演奏している。最近ではロバート・プラント(元レッド・ツェッペリン)が、作者ドブソンと一緒にステージで歌っている動画もYouTubeで観ることが出来る。後よく知られているのは、原曲よりはるかに長いインプロビゼーションをLIVEで披露するアメリカのグレイトフル・デッドであろう。
今やフォーク、ロックのミュージシャンにはスタンダード・ナンバーとなっているこの曲だが、どのミュージシャンのどのバージョンを聞いても、前述した詞の内容から想像されるような暗さや陰鬱さ、核戦争に対する怒り、といったものは感じとれない。声の激しい抑揚もなく、実に淡々とした調子で歌われてゆく。思えば戦争の勃発や人の死というものは、我々が何気ない日常を送っているなかで、ある日突然に起こるかもしれないという恐怖である。目の前が、未来が、朦朧としか映らない “朝露” の中を、その恐怖を抱いて我々は日々淡々と生きている。

追記:この曲の詳細については、『プログレッシブな日々』というサイトの中の『「朝露」と「渚にて」』を是非御一読ください。

Follow me!