日米二人の女性シンガー=ソングライター

ファイル#13 曲名:Detroit Or Buffalo 
ファイル#14 曲名:Rainy Nights Are All The Same    
作詞,作曲:バーバラ・キース
バーバラ・キース に収録

アメリカでジェームズ・テイラーのアルバム『スウィート・ベイビー・ジェイムス』からシングルカットされた『ファイアー・アンド・レイン』が1970年秋に大ヒットし、シンガーソングライターブームの幕開けとなった。そして、1972年に吉田拓郎が『結婚しようよ』『旅の宿』のシングルヒットでブレイクし「シンガーソングライター」という呼び名が日本でもひろく使われるようになる。また、1973年頃から五輪真弓、りりィ、荒井由実らの女性シンガーソングライターも台頭してきた。

中島みゆきは先述したミュージシャンより少し遅れて、1975年9月に『アザミ嬢のララバイ』でキャニオン・レコードからデビューし、1977年12月には『わかれうた』がオリコンチャートの1位を取った。そしてそれが、(別れうた・ふられうた歌いの女王)という一般的な彼女のイメージを創りあげた。当時の彼女のインタビューを読んでみると彼女自身も“ひとつの看板が出来た”と、それをプラスにとらえていたようだ。確かに彼女の初期の作品には失恋を歌った作品が多い。ただ、いつも聴いていて想うのだが、主人公の女性は本当にふられたのだろうか?と。ふられてしまったというよりも、もう少しで相手の男性と幸せになれるという一歩手前で自ら逃げている。恋愛の途中で自分の嫌なところを相手にみせて、故意に嫌われて“ふられてしまった悲しい”と歌っている。恋愛の深みにはまっていく自分が怖いのか?深みにはまってしまった後の破局を恐れているのか?あるいは恋敵と競う自分が嫌なのか?シンガーソングライターは自分の廻りの些細な事象や自分自身の心情を歌にするといわれていた。70年代~80年代の中島みゆきの作品には自分自身を投影した主人公を登場させていたのかもしれない。
今日では、シンガーソングライターはJ-POPというジャンルに吸収され、中島みゆきもスケールの大きい曲を歌う日本の女神的存在になってしまった。

1969年と1973年に2枚のソロ・アルバムを残してメインストリームから消え去ったアメリカのシンガーソングライター、バーバラ・キース。彼女の作る曲は暖かく、歌声は芯が強く情熱的だ。2枚目のソロ・アルバム6曲目の『Detroit Or Buffalo』。新たな希望を抱いて列車に乗り旅立とうとする女性の心情を、はかなくも力強く歌い上げる。途中から切り込んでくるスニーキー・ピートのペダル・スティールギターとローウェル・ジョージのスライド・ギターが、旅に出る彼女を暖かく見守り、励ますように絡み合う。9曲目『Rainy Nights Are All The Same』はアコースティックギター主体のフォーク・ソング。雨の夜に恋人に語りかける歌だが、その相手はそばに居るのか幻想なのか夢なのか、実像は見えてこない。アコギのカッティングの響きが胸に詰まる。1曲目の『All Along The Watch Tower(見張り塔からずっと)』はボブ・ディランのカバーで、演奏は素晴らしいが彼女の声とは合っていないように思う。
中島みゆき、吉田拓郎やボブ・ディランのように、何十年という時の中で、何十枚もアルバムを発表し続け、その時代時代で新たな感動を人々に与えていくシンガーソングライターもいれば、バーバラ・キースのように数枚のアルバムを心の糧として、一生涯聴き続けてもらえるシンガーソングライターも存在する。

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