S&Gで有名な「スカボロー・フェア」聴き比べ

ファイル#7 曲名:Scarborough Fair (スカーバラ・フェア)
作者不詳 (英国トラディショナル)
The Water Of Sweet Sorrow (Midwinter) に収録

1968年のアメリカン・ニューシネマの代表作『卒業』で使われてから、日本でも多くの人に知られるようになったサイモンとガーファンクルの「スカボロー・フェアー/詠唱」。実はこの曲はポール・サイモンがデビュー間もない1965年頃イングランドで修業?していた時、マーティン・カーシーからイギリス民謡「スカーバラ・フェア」を教えられ、アメリカに帰って「詠唱」と称する反戦歌を重ね合わせ編曲し発表した作品である。
「スカーバラ・フェア」自体の詞の内容は“人間に姿を変えた異形の者がスカーバラ(地名)へ赴こうとする人物に、女性への伝言(実現不可能な事柄)を頼もうとするが、相手が変に返答しようものなら魂を異界に持って行こうと待ち構えている”といったもので、「パセリ、セージ、ローズマリィ、タイム」というリフレインは魔除けの呪文であると推測されている。美しい旋律に相反して、恐ろしい内容である。しかし、現在ではこの曲は「グリーンスリーヴス」や「蛍の光」とともに全世界で愛され親しまれる英国伝統歌となっている。

YouTubeで「Scarborough Fair」を検索すれば、有名無名を問わず多くのミュージシャンが取り上げている。視聴してみると、アコースティックギターは勿論ピアノや笛等の様々な楽器を使用し、音程・テンポを若干変化させて、それぞれが工夫を凝らし演奏している。どれも五十歩百歩であるなか、1曲だけ他とは違う肌触りを持ったミュージシャンを見つけた。Midwinterというグループである。
Midwinterは Jill Childという女性ヴォーカリストを擁する Peter, Paul and Mary タイプの三人組である。彼等は「Scarborough Fair」を無伴奏で歌っている。元来イギリス民謡は、人から人へ口承によって伝えられてきたもので、楽器の伴奏は伴わないのが必然であったらしい。彼等三人が歌う無伴奏の「Scarborough Fair」を聴くと、不思議なことに教会音楽、讃美歌を聴いているように感じる。とどのつまり「Scarborough Fair」も本質的には宗教音楽として捉えることができるのかもしれない。


追記:先日、アメリカ映画の名作「ゴッドファーザー」を鑑賞しながらフト感じたことがある。映画には使用されなかったラストシーンの映像。それは『教会で祈りを捧げるケイ』を映していた。何を祈っていたのか。新たなゴッドファーザーとなった夫マイケルが悪魔との取引に応じないように、家庭が決して崩壊しないように、はたまた…? このシーンを見ていると、何故だか頭の中にMidwinterが歌う「Scarborough Fair」が聞こえてきた。

《参考文献》茂木健『バラッドの世界』(春秋社、1996 年)13-20 ページ

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